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紅の詩 《 Al dente 》

器の詩学がコスモスを見つめる。紅輪のディレクターであり作陶家、若竹純司(イオ・リリック)による詩、ショートストーリー、エッセイの連載「紅の詩」。第1回。

 


 

《Al dente》

 

当シェフはパスタの茹で上げをミスしない。

 

夫婦かどうか定かではないが、その二人連れの注文はボロネーゼとボンゴレビアンコだった。

 

赤と白がテーブルに並ぶ。

 

これがワインなら絵図も変わろうが、二人で酒を飲むことはわずかもなかった。

 

この店はブランチタイムにもパスタを提供する点で貴重だった。

 

「うん、アルデンテね」

 

「アルデンテだよ」

 

茹で具合に二人は安堵した。

 

食べ終わると女はもとの雑誌に目を戻した。

 

今日が初めて雑誌というものを目にしたのだろうか、彼女は何冊をも積み上げる。

 

仕方なく男はBGMに耳を向ける。

 

サックスが奏者を制御する枷をほどこうとしているように聴こえた。

 

男がはじめてジャズを知ったのはこの時だった。

 


 

[自作解説]

 

食事を通して人間関係や感情の微妙なニュアンスを表現しました。まず、パスタの茹で加減が正しいことで安心感や満足感を表現しています。一方で、二人の間には何か微妙な緊張感や距離があり、それが「夫婦かどうか定かではない」という不確かな関係性を示唆します。テーブルに並ぶ赤と白の色彩は、物語の舞台や雰囲気を鮮明に表現しています。そして、酒を飲まずにいる二人の姿に、ドラマチックな展開が許されないような不穏な空気感を込めました。女性が雑誌に興味を示す一方で、男性はBGMに耳を傾けるという対比を持たせています。二人の間にはコミュニケーション欠如があるのでしょうか。いや、二人には二人だけが知る安心の距離感があるのでしょう。最後に、男性がジャズを知るという描写に物語の転換点を持たせています。男性の内面には何か新しい気づきや変化が生じています。食事や音楽を通じて暗示された人間関係や内面の葛藤を描いた詩。私はこれからも書き続けます。

 

by イオ・リリック

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